訪問・在宅医療

2021/08/19 現在 訪問診療、在宅医療で対応できる患者さんに余裕があります。

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◆2021/08月 対応する訪問診療の患者さんが50名を超えました
◆2022/06月 対応する訪問診療の患者さんが80名を超えました

「外来通院をなんとかしていたが、とうとう通院できなくなった」

例えば、圧迫骨折などの外傷、脳出血や脳梗塞などの脳卒中、老年期に多い廃用症候群(体力の低下)などで通院が中止されることがあります。一度、救急病院に運ばれるものの、その後自宅には戻れずに施設に入所になる場合もあります。

外来のみを行っているクリニックであれば、通院できなくなった時点で「さようなら」になります。長年通院してきて、信頼関係を築いてきた、阿吽の呼吸の医師ともお別れです。

これは医師、患者ともに忍びないということで、当院で訪問診療を開始しました。医療法人葡萄の木 ぶどうの木クリニックと連携しています。

外来から訪問診療に切り替えたいというご希望があれば、江口仁医師までご連絡ください。

どのような患者さんに訪問診療・在宅医療がお勧めですか?

前提として、「一人で通院が出来ない」ことです。一人でスタスタと通院ができる患者さんに、現在の医療保険では在宅医療の適応はありません。

おすすめ例1

通院がきつくなってきた。通院するものの待ち時間が長く、疲れてしまう。薬局でも待たないといけないし…。家族が付き添わないといけないが、仕事が忙しくてなかなか付き添えない。タクシーで通院している、通院に介護タクシーが必要。などです。

おすすめ例2

数ヶ月に一度病状の悪化がある。例えば心不全や肺炎で入退院を繰り返している。病状の悪化が病院が開いている時間に起きてくれるとは限りません。在宅医療は24時間365日で健康のサポートを行っていますので、病状の変化が大きいときにはおすすめです。

費用について

訪問診療の医療費は通院より高いです。1割負担の方で、最低でも3000~6000円、訪問頻度が増えると医療費の上限にまで達します。

通院にタクシーを使い、費用が数千円かかる場合や、家族が常時付きそいが必要で、その時給を換算し、仕事の機会損失を考えるとどうでしょうか?

この場合は訪問診療のほうがコストパフォーマンスが良い可能性があります。

ただし、外来は外来で、病院くらいしか出かけない、病院のあとに食事にいく、親子で病状を共有するなどの意味や価値があります。

自分や家族で、費用も含め、快適な方法を選択すればいいと思います。

入院・病棟医療、外来医療に次ぐ第三の医療と言われています。自宅や高齢者住宅などの生活の場で提供される医療です。医師の一時的、緊急的な往診だけを意味するものではありません。病院の機能が地域に拡がったと考えると理解しやすいですが,そこで提供される医療の質や目的は大きく異なります。

入院医療が病気を治し、命を救う医療と考えると、在宅医療は寄り添い、支え、治し、看取る医療と言い換えることができます。通院困難になった患者さんが、残された時間を穏やかに、リラックスして過ごせることを支える医療でもあり、細やかなケアにより残された時間を出来るだけ伸ばす医療でもあります。

江口医院では、とにかく心も体も穏やかに生活できることを最も重視しています。勿論、積極的な加療中にも緩和ケアを外来で受けることも出来ます。苦しみを減らして、出来ることを増やすのも一つの手段です。多く患者さんや家族は死そのもの心配していますが、死にゆく中での苦しみも心配しています。少しでも苦しみが減らせるように薬物療法(モルヒネなど)を含めて治療を検討します。

在宅医療の質・意義とは

医学的な質は

病院より劣ります。例えば、手術は勿論、抗がん剤や輸血、急な人工呼吸器などは原則行えません。ただし、抗生剤の投与、点滴、酸素療法、緩和ケアは病院とあまり変わりなく投与が可能です。二次救急病院に勤めていたときの医療と比べて、感覚的には8割ほどの質になるかと思います。1つの理由は、高齢者医療では侵襲的な医療は望まれることが少なく、延命治療も最近では行うことが減ってきています。例えば、肺炎で治療に必要なのは点滴、酸素が主体で、治りが悪い場合は人工呼吸器が必要になります。喀痰の吸引などの看護の面もあるので、個人の感覚になりますが、病院だからこそ助かるという病気は2割くらいでしょうか。

急な変化があったときに助かる可能性はないのでしょうか?病院内の急変、心肺停止時の蘇生率は大学病院で50%ほどです。高齢者医療になればその可能性はさらに低いでしょう。しかし、大学病院のように人員、設備が豊富な環境にいれるのは数日~数週間です。一方、高齢者が心肺停止で搬送された場合、一時的でも心拍が再開するのは31.4%、入院したのは19.4%、生存退院あるいは転院したのは3.4%という報告があります。勿論、病前のADLが保持できるのは3.4%よりもっと少ないと予測されます。

つまり、在宅や施設にいる患者さんは急変すると助かりにくいので、急変しそうな予兆にどれだけ早く気付けるかがポイントとなります。急変したあとの処置より、急変する前の対応が大切ということです。だからこそ、事前に診察が必要なのですが、体が動かない。そのための在宅医療でもあります。最近の施設では、看護師さんや介護士さんが体調チェック、バイタルチェックをして頂けるので、全く気付かない急変は稀になってきています(感覚的には年に1-5%くらいでしょうか)。

最近では、肺炎や心不全のイベント時でも在宅で治療したほうが成績が良いという論文も出てき始めました(参考文献1~3)。病院にはリハビリテーションプログラムがあるところもありますが、デイサービスなどで提供されるような脳の刺激は少なめです。そのため、廃用症候群が進んだり、せん妄(よく認知症が進行したという表現にされますが)の出現により、在宅での治療より入院の治療が成績が悪くなることがあります。ただし、発病すると急に体が動かなくなるので、介護は大変になりますし、デイサービスにはいけなくなります。訪問看護ステーションと連携することで、多少はサポートできると思いますが、家族の一定の覚悟が必要なことが多いですね。

気持ちは

不安障害などの精神症状が強く出ない人は、在宅医療のほうが心地良いと感じる方が多いです。その理由を示した研究結果はありませんが、個人的に聞いてみると、「他人(看護師さんや同室のかた)に気を使わないで良い」「食事を取る時間など時間にしばられなくていい」「自由に出来る(身体的より精神的に)」とおっしゃられることが多いですね。

最近はコロナのこともあり、家族と会えないことを辛く思う患者さんも多いですね。

周囲は

ご自宅の場合は、症状の変化や介護に不安をもたれる家族は多いです。というより、ほぼすべての家族が不安に思われていますね。ただ、問題になってくることはだいたい同じで、パターン化されています。例えば症状では、疼痛、呼吸苦、不眠、便秘、食欲不振などです。疾患ごとにどのような症状が問題になるのか統計も取られています。イベントで起きやすいのは感染症と転倒、骨折です。一方、介護で問題になりやすいのは食事介助とトイレ介助です。この2つがない場合、例えば点滴、尿道カテーテル、寝たきりの場合は介護負担は相対的に低くなります。

また、介護の質を妥協できないと介護者自身が辛くなります。介護はできる範疇でボチボチと、更にプロの手を借りながらがオススメです。完璧な介護を目指すと、疲弊して長く続きません。

病気への治療と、患者さんの気持ちの良さと、周囲の気持ちの良さが高いバランスで提供できる在宅医療が理想だと思います。

【参考文献】

  1. Substitutive home hospitalization reduced cost, health care use, and readmissions while increasing physical activity compared with usual hospital care.

  2. Levine DM. Hospital-Level Care at Home for Acutely Ill Adults: A Randomized Controlled Trial. Ann Intern Med. 2019

  3. The hospital-at-home care model has potential to improve outcomes in low-risk patients. Federman AD. Association of a bundled hospital-at-home and 30-day postacute transitional care program with clinical outcomes and patient experiences. JAMA Intern Med 2018

  4. Liao JM. Hospital-at-home care programs— Is the hospital of the future at home? JAMA Intern Med 2018

  5. 日本在宅連合学会ホームページ:https://www.jahcm.org/overview.html